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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和45年(う)49号 判決 1970年7月14日

被告人 古江孝

主文

原判決を破棄する。

本件を鹿児島簡易裁判所に差し戻す。

理由

(控訴の趣意)

本件控訴の趣意は、福岡高等検察庁宮崎支部検察官検事荒井三夫提出、鹿児島区検察庁検察官事務取扱検事高木不二雄作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。

(当裁判所の判断)

先ず職権を以つて記録を調査するに、原審公判調書によると第一回及び第二回の公判調書には裁判官として永田正雄と記載せられていて、各その調書欄外裁判官認印欄には「永田」と刻した認印が押捺されており、第三回及び第五回から第一〇回までの公判調書にはいずれも裁判官として永田武義と記載せられていて、各その調書欄外裁判官認印欄には「永田」と刻した認印(前記第一、二回公判調書の「永田」の印影とは異なるもの)が押捺されているが、第四回公判調書には裁判官として関屋義郎と記載せられていて、同調書欄外裁判官認印欄には右第三回及び第五回以降の公判調書の欄外裁判官認印欄に押捺されたものと同一の「永田」と刻した認印が押捺されている。

ところで刑事訴訟規則第四六条が公判調書に関与裁判官の認印を必要とする法意は当該公判に立ち会つた裁判所書記官がその権限と責任に基づいて作成、認証(署名押印)した公判調書の完成のための要件として、その成立、内容について更にその確認をなすことにあり、それは要するに当該関与裁判官と立会書記官の両者が相俟つて公判調書の真実性を確保せんとするにあることは多言を要しないところである。

しかして本件の如く第四回公判に関与した裁判官として同公判調書に記載されている裁判官の氏名と同調書の欄外裁判官認印欄の認印とが不一致であり、明らかに別人の認印を想わせる事案においては、たとえ真実はどのようであれ、本件記録上はこれを仔細に精査、検討しても右調書の記載が客観的に明白な誤記となすべき資料がない以上、結局右両裁判官のうちいずれが右公判の審理に当つたかは不明であつて、同公判調書は無効であるといわなければならず、これをもつて同公判期日における訴訟手続が適法に履践せられたことを証明するに由なく、原審公判手続はその連続を欠くこととなり、しかも右第四回公判調書には裁判官が犯行現場の録音テープ一巻の証拠決定及び証人黒江宏行、同木佐貫和敏の証拠調等の訴訟手続をなした旨の記載があつて、原判決は同公判における証拠調の結果を原判示事実認定の証拠として挙示、採用しているのであるから、右手続違反は判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、原判決はこの点において破棄を免れない。

よつて検察官の控訴趣意に対する判断をなすまでもなく刑事訴訟法第三九七条第一項により原判決を破棄し、同法第四〇〇条本文に従つて本件を原裁判所に差し戻すべきものとし、主文のとおり判決する。

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